この展覧会は下記の通り巡回します。
東京展 会期:2018年1月23日〜4月1日 会場:東京都美術館
愛知展 会期:2018年4月24日〜7月16日 会場:豊田市美術館(第6章、7章の作品は5月31日まで撮影OKです。)
北海道展 会期:2018年7月28日〜9月24日 会場:札幌芸術の森美術館
★受け継がれた一族の魂
今回の展覧会では、ブリューゲル一族4世代9人の画家が出品されています。
ほぼすべてが個人蔵で日本初公開作品です。そのせいか作品の状態がとても良いものばかりでした。
創始者は絵本のように素朴な農民たちを描き出し「農民画家」と呼ばれたピーテル・ブリューゲル1世(1525/1530~1569)。
彼は農民の日常に目を向け、また自然そのものを主題にしています。その魂は2人の息子たち、さらに次の世代へと受け継がれ、ブリューゲル一族は150年にわたって画家を輩出し続けました。
そしてブリューゲルの名は、16~17世紀の美術に強い影響を与えました。
★ピーテル・ブリューゲル1世(1525/1530?~1569)
16世紀のフランドル(現在のベルギーに相当する地域)生まれ。
ピーテル1世は1552年頃~54年頃にかけてイタリアに滞在。けれども彼が関心を持ったのは同地の画家ではなく、むしろ旅の道中で見たアルプスの雄大な自然でした。
ピーテル・ブリューゲル1世、ヤーコブ・グリンメル共作
《種をまく人のたとえがある風景》 1557年 個人蔵
この絵のたとえとは
種→キリストの言葉
いばら→欲に負けて信仰を貫けない(芽が出ても茨が邪魔して育たない)
石→聞いても忘れる(石の上に蒔いても根が脹れない)
道→聞く気が無い(道に種をまいても鳥が食べてしまう)
キリストの言葉をちゃんと聞けば(畑に蒔いていれば)実りが何倍にもなるという喩えで、キリスト教の教えを風景画の中で教えています。
★息子
ピーテル1世の長男ピーテル2世(1564~1637/38)
彼は工房の助手たちとともに、父の作品の忠実な模倣作(コピー)を制作しました。
ピーテル・ブリューゲル2世《野外での婚礼の踊り》1610年頃 個人蔵
《野外での婚礼の踊り》(部分)お婿さんは何処にいるかわかりませんが、花嫁さんは真ん中の人です。というのはこの当時女性は髪の毛を見せてはいけないのでスカーフをする慣わしでしたが、この女性は髪を出して花冠をしています。
花嫁さんは只今ご祝儀を数えているところです。(笑)
《野外での婚礼の踊り》(部分)「ブラゲット」と言って、この当時の男性は貴族も王族も含めて股間を目立たせていたとか・・。ミュージアムショップで缶バッジになって売っています。(笑)
17世紀になると、新たに台頭した裕福な市民たちの間で絵画の収集が盛んになり、市民たちは名高い作品の安価なコピーを欲しがるようになり、模倣作品はよく売れました。なかでも《鳥罠》は100枚以上のコピーが制作された人気作品です。
ピーテル・ブリューゲル2世《鳥罠》1601年 個人蔵
フランドルの農村風景。降り積もった雪を見ているだけで、冬の凍てつく寒さ、厳しさが肌で感じられますね。
画面の下の方をよく見ると、氷に大きな穴が開いています。スケートに夢中になっている人々はそれに気が付かないでしょう。
画面右側に鳥罠。棒切れに結びつけられた糸を引っ張れば、板がその下で餌をついばんでいる鳥を押しつぶしてしまいます。つまり、スケートと鳥罠という2つのモチーフはともに「うっかりすると死んでしまうよ」というメッセージが込められているのです。
★次男ヤン1世(1568~1625)―「花のブリューゲル」
長男のピーテル2世が生涯にわたって父の作品のコピーを作り続けたのに対し、次男ヤン1世は、最初の頃は父親のコピーを描いていましたが、やがて独自の道へ進みます。彼は父の自然への眼差しをさらに発展させ、花の静物画という新たなジャンルを切り開きました。その新しい花の絵が「花のブリューゲル」と言われ、セレブに大人気になりました。
《机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇》1615-20頃 個人蔵
細部まで写実的に描かれています。画面をよく見ると、花の上にとまったトンボや蜂といった虫など分かりますか?(右側の上の方にトンボ、中ごろに蜂がいます。)
チューリップは16世紀半ば、トルコからもたらされた花で、17世紀、最初の投機バブルの対象になりました。一つの球根が家一軒分なんてこともあったそうです。右側の縞模様のあるチューリップは特に珍重されましたが、実はこれはウイルス性のモザイク病によるものであることが現在ではわかっています。
40代で若死にしたピーテル1世。その2人の息子たちは、長男(ピーテル2世)5歳、次男(ヤン1世)1歳位でしたので、父から直接教えを受けることこそ叶わなかったのです。が、細密画家だった祖母に育てられ教えを受けたのでしょう。
さらに父親の作品の模倣をすることで父親の「魂」にふれる事ができ、受け継ぐことが出来たのだと考えられています。
★孫、ひ孫世代
子孫も多く画家として活躍し「ブリューゲルブランド」をさらに盛り立てていきました。特に孫世代では、ヤン・ブリューゲル2世(1601-1678)、図鑑のように細密な昆虫画を手掛けた外孫のひ孫ヤン・ファン・ケッセル1世、静物画を得意としたひ孫のアブラハム・ブリューゲルなど、それぞれに個性的な道を歩んでいます。
★孫ヤン・ブリューゲル2世(1601-1678)
《嗅覚の寓意》1645ー1650年頃
香水瓶
《聴覚の寓意》1645ー1650年頃
人間の五感を描いた中の2枚。
★ひ孫ヤン・ファン・ケッセル1世(1626-1679)
《蝶、カブトムシ、コウモリの習作》1659年個人蔵
大理石に描かれています。図鑑のように細密な昆虫画は、色あせていく標本より実物に近く貴重だそうです。
《果物と東洋風の鳥》1670年頃 個人蔵
彼はイタリアへ渡り、シチリア貴族など有力なパトロンを得ました。
この作品はイタリア風の静物画にフランドル(現在のベルギー)の細密画を融合させ人気を博しました。
★一族の追随者の作品
マーティン・ファン・クレーフェ《農民の婚礼》6点連作1538年―1560年頃 個人蔵
向かって左側から下へ
- 従者を引き連れた新郎の行進
- 従者を引き連れた新婦の行進
- 贈り物の贈呈
右側から下へ
4婚礼の宴
5結婚の祝祷
花嫁さんは皆さんとご祝儀を数えています。(笑)
画面左下では赤ちゃんにおしっこをさせています。(笑)
おおらかな場面に笑ってしまい、癒されませんか~?
6結婚生活
農村での婚礼を表した民俗学的に大変珍しく貴重なものだそうです。
16,17世紀フランドル絵画、しかもほとんどが滅多に見られない個人蔵ですので再び見る機会はないかもしれないとのこと。ご興味のある方はお見逃しなく~!