鏑木清方(かぶらき きよかた)(1878~1972年)をご存じでしょうか~?
「西の松園、東の清方」と並び称される美人画の大家です。
没後50年を記念した回顧展が京都国立近代美術館で開かれました。
行って見てびっくり!
美人画の大家と思い込んでいましたが、文学や芝居、歌舞伎、落語、風俗など美人画以外にも名作がズラリ~。
むしろ美人画家というジャンルに限らない多才ぶり!
どの作品にも清方の幼い日々の思い出が散りばめられ、明治時代の建物や風俗、市井の人々の生活などを通してその絵から物語が連想されるのです。
さっそく美人画家というジャンルにとらわれない、私が選んだ清方の作品をご紹介したいと思います。
まずは展覧会側の一押しの見どころ2作品から~
(1)三部作
《浜町河岸》昭和5年(1930)
《築地明石町》昭和2年(1927)
《築地明石町》は長い間行方不明になっていた幻の作品。(清方49歳の作品)
2019年に44年ぶりに発見され、今回三部作として関西で初公開されました。
作品のタイトルにもなっている明石町は、明治時代には外国人居留地となっていました。
背景に描かれているのは佃の入り江に停泊している帆船です。
右下には青いペンキ塗りの柵。この柵は日本ではこの時代では珍しいものでした。
清方は明治30年代の幼い時代を過ごした地を思い起こして描いています。
この美人画はなんて繊細で清らかな女性像なのでしょう!
優美な仕草で後ろを振り返った瞬間を描いています。
着物や羽織の文様の細かいこと。描き込みがすごい!
《浜町河岸》あどけない若い娘が踊りのお稽古帰りに復習をしている様子を描いています。大きな房の付いたかんざしはそのころ流行したものでしょう。
背景の火の見櫓は関東大震災で消滅し、今はありません。
《新富町》大きな蛇の目傘をさし、道を行くのは新富町の芸者です。
花街のあった新富町は清方の小学校時代の通学路。
着物の文様が見事な描き込みです。羽織には利休色に白い小紋。
大きな小紋と小さな小紋を描き分けるのは大変な技術だそうです。
袖口からのぞく菊と紅葉の襦袢が鮮やかです。
清方は明治30年代をそれぞれの想い出の町の中に女性を描き分けました。
やっぱりただの美人画とは違っていますね。
美人画の名手・清方の傑作シリーズですが、清方自身、美人画家と言われるのを嫌っていたそうです。
(2)《ためさるゝ日》大正7年(1918)
40年ぶりに2幅そろって展示されました。
清方が自己採点した作品中、会心の出来は★★★3つ,
やや会心は★★2つ、まあまあは★一つと書き残しています。
面白いことに展示作品のキャプションの右上にそれぞれ自己採点の★印が付いています。
この絵は★★★3つです。
何を試されているのか~、それは長崎で隠れキリシタンかどうか~踏み絵をすることです。遊女の宗門改め。少し緊張気味の芸者。指先に力が入ります。
そして豪華な装いに注目。かんざしはべっ甲、翡翠、チェーンの細い描き込み。着物の柄は黒地に浮かぶ帆船、帯は細かい花や葉の刺繍が施されています。お見事!!!
もう一幅のほうは順番を待つ若い遊女を描いています。
美人画だけではない生活感などを描く本当の清方に出会う。
(1)ドラマチックな芝居絵
《野崎村》大正3年(1914)
近松判二の戯曲から題材をとった。
油屋の娘・お染、奉公人久松。野崎まいりに行くと言って久松に会いに行ったが、母親に連れ戻される場面を描く。
(2)小説を読んでいるような物語絵
《遊女》大正7年(1918)
泉鏡花作『通夜物語』から。ヒロイン・丁山(ちょうざん)の妖艶な姿を描いた。
(3)風俗画
私の一番のお気に入り!!!見れば見るほど色々なことが発見できる!見飽きない作品。
ほんの一部ですがご紹介します。もしかして清方自身も風俗作品が一番好みだったのではないかしら?!
《明治風俗十二か月》昭和10年(1935)
昭和10年に明治30年代を思い出して描いています。
四月「花見」
白いお面「目かつら」を付け芸妓の稽古をする見習いさん。
花の名所・向島。4月の暖かな陽気が伝わってきます。
六月「金魚屋」
明治時代に流行ったもの、洋傘、女学生のエビ茶袴。
日焼けした子供など細かく描き分けているところが素晴らしい。
七月「盆灯籠」
このころ流行ったおもちゃ「組み立て灯籠」。点線に沿って切り取り、組み立てるおもちゃ。
うちわは画家・柴田是真の絵。音羽屋の配りものだそうです。この二人は五代目菊五郎のファンだったことがわかります。
後景のおもちゃ「組み立て灯籠」
八月「氷店」
明治20年代には人工の氷が売っていたそうです。
看板娘の髪飾りは流行のもの。
前だれの下の浴衣が透けて見える。おしゃれ~!
浴衣姿で氷を削る娘。
見た目にも涼しげな絵です。
十月「長夜」
温かなランプの灯。男の子は学業に励み、姉は針仕事、かたわらにお茶を入れる母親の姿。お茶の香りがしてくるような一枚。
十一月「平土間」
11月は歌舞伎の顔見世。芸者さんの髪飾りに注目すると刀と懐紙。
推しの演目の髪飾りはグッズ売り場に売っていたとか。
十二月「夜の雪」
年の瀬、雪の降る晩、人力車のお客が冷えないように膝掛をかける引き手。
雪が深々と降り、一年が暮れていく様子を描いています。
《朝夕安居(ちょうせきあんきょ)》昭和28年(1948)
明治20年~30年ころの日常生活。いろいろな人々が入り混じっています。
井戸端で洗面をしたり、暗くなる前にランプの掃除をしたり、市井の人々の何気ない日々の小さな幸せな様子を描く、愛おしい清方の幼いころの思い出!
(4)肖像画―写実
細かいところまで描き込みがすごい!
着物の絞り、座布団の文様などお見事~~~!
円朝の創作人情噺が新聞連載になり、その書き取りの席を描いた一枚。
展覧会を見終わって、なんとも言えない郷愁に誘われました。
清方が「美人画家」とだけ言われるのを嫌った訳が分かった気がしました。
単なる美人画ではない、どの絵にもなんらかの想い出が詰まっていたからでしょう。
しかもそれらの絵には細かすぎるほど丁寧な描き込みがされています。
美しい作品に出会え、私自身も幼い日々を思い起こし楽しい時間を過ごすことができました。