「よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技」展(名古屋・松坂屋美術館)に行ってきました。

毎年、秋になると恒例の正倉院展が開かれますね。今年は憎っくきコロナウイルスのせいで密を避けるため入場は予約制。初出陳のお薬が公開されたとか。楽しみにしていましたが、行くことができませんでした。

 

そこで今回は奈良博から名古屋に巡回してきたこの展覧会を見てきました。

正倉院宝物のうち完全再現を目指した究極の宝物をいくつかご紹介したいと思います。

 

模造と言ってもただ外見が似ているというのではなく、材料、構造、技法など伝統技術者(人間国宝)の熟練の技を駆使して、限りなく製作当時の姿に再現しようと云うものです。

 その最たるものは、再現に15年の年月を費やした「螺鈿紫檀五弦琵琶(らでんしたんごげんびわ)」でしょう。

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宝物の琵琶に使われている材料は本体には紫檀、飾りにはヤコウ貝、タイマイ(ウミガメの甲羅)など今では手に入らない材料を集めることが難しかったのですが、日本国内で保存されていた材料を使ったそうです。

実際に演奏できるって!ぜひ聞いてみたいですね。

 

「子日目利箒(ねのひのめとぎのほうき)」蚕の成長を願う儀式で用いた箒。

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この箒は明治時代に作られた模造品です。めったにお目にかかれない?

私も一度だけ見た珍しいものなので取り上げてみました。

箒が宝物?と驚いてはいけません。よく見ると穂先にはその当時貴重な色ガラスや真珠の小玉が刺し通されています。把手には紫色に染めた革に金糸がまかれている豪華なものです。

 

明治8年、東大寺で開催された奈良博覧会。そこで正倉院宝物が初めて一般公開されました。

この機会にあわせて地元の工芸家正倉院宝物の模造を作ってもらおうという取り組みが始められたそうです。

 

正倉院宝物は一見すると保存状態もよく、展示や移動に支障がないように見えるものがあります。しかし染色品などは、わずかな移動、振動で崩壊しそうなものも少なくありません。

例えば「赤地唐花文錦」(幡に使われた錦)

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儀式に用いた長い旗です。

赤地唐花文錦は衣装などにも使われ、最も正倉院らしい絹織物です。

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生地を再現することで、奈良時代の人々がどんな糸を使って、どのような色で染めていたのか、どのように織っていたのかを確かめることができました。

 

  • 酔胡王面(酔った胡王役の面)桐の木製

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中国由来の伎楽、仮面劇の一種。寺院の法会で演じられました。酔胡王とは酔った胡人の王で、赤ら顔に高い鼻、ひげをたくわえ冠帽をかぶっています。

模造を作るにあたって彩色は科学分析の結果をもとに行ったそうです。

ひげは黒毛馬の尾の毛を使っています。

 

紅牙撥鏤撥(こうげばちるのばち)

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撥鏤(ばちる)とは技法の一種。白い色をした象牙を赤色に染め、その表面の赤色を彫ると下から白い色が出てくる。こうした模様の付け方を「撥鏤」と言います。

けれどもこの技法は、奈良時代以降は途絶えてしまいましたので再現する意義がありましたね。

 

黄金瑠璃鈿背十二稜鏡(おうごんるりでんはいのじゅうにりょうかがみ)(七宝飾りの銀鏡)

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この鏡を模造することで大発見。

花びらを一枚ずつくっつけて作られています。

花びらはうすい銀の板に色のついたガラスの粉を焼き付ける方法で作られています。

正倉院宝物のなかで唯一の七宝製品で、しかも唯一の銀製の鏡ですって。

 

銀平脱合子(ぎんへいだつのごうす)(碁石入れ)

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長い間、聖武天皇のご遺愛のこの碁石入れはどのように作られているか謎でした。

平成4年模造を作るときにレントゲンで調べてみたところ、薄くした木で輪っかを作り少しずつ大きさの違う輪っかを積み重ね、本体の形を作り出していることがわかりました。黒漆地に銀の薄板を貼って文様を表す「銀平脱」という技法で飾られています。

表面の文様はペルシャ由来で、樹の葉を加えた二羽のオウムと周りに連珠を巡らせています。

 

金銀荘横刀(きんぎんかざりのおうとう)(金銀飾りの太刀)

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明治8年に開催された奈良博覧会に正倉院宝物の模造がたくさん製作されました。その中でも大刀が一番たくさん作られています。

というのは、大刀は多くのパーツや飾りで出来ているので、古代の技術を知るチャンスだったようです。

鞘:木製黒漆塗り。金と銀で瑞花と飛雲の中を走る霊獣が描かれています。

鞘の金具:金銅製で魚々子(ななこ)地に花文を毛彫りしている。

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とても興味深い展覧会でした。まさに温故知新!

こうして次世代へと受け継がれていくのですね。