古来、糸を縫い、織ることは故人の追善になると信じられてきました。
日本では刺繡や綴織(つづれおり)など「糸」で表された仏の像は飛鳥時代から数多く作られました。とりわけ、古代では大寺院の本尊とされる花形的存在でした。
聖徳太子が往生した世界を刺繡で表した天寿国繡帳(てんじゅこくしゅうちょう)(国宝、奈良・中宮寺蔵)、綴織當麻曼荼羅(つづれおりたいままんだら)(国宝、奈良・當麻寺)や刺繡釈迦如来説法図(ししゅうしゃかにょらいせっぽうず)(国宝、奈良国立博物館蔵)は、その隆盛のさまを伝える至宝です。
鎌倉時代以降、刺繡の仏は再び隆盛を迎えますが、その背景には8世紀の綴織當麻曼荼羅を織ったとされる中将姫に対する信仰がありました。極楽往生を願う人々は中将姫(ちゅうじょうひめ)に自身を重ね刺繡によって阿弥陀三尊来迎図(あみださんぞんらいごうず)や種子阿弥陀三尊図(しゅじあみださんぞんず)を作成しました。(図録より)
では絵画とも違う「糸」の仏の世界の魅力をご紹介したいと思います。
★天寿国繡帳 飛鳥時代(7世紀)縦88.8×横82.7cm 奈良・中宮寺蔵
推古30(622)年、聖徳太子の没後,妃・橘大郎女(たちばなのおおいらつめ)が,太子が往生した天寿国のありさまを偲ぼうと発願し,東漢末賢(やまとのあやのまけん)ら 3人の渡来人に下図を描かせ,采女らに刺繍させたものです。
鳳凰が飛び月が浮かぶ空、蓮華の花から化生する人、「ひらおび」という飛鳥時代特有の衣装をまとった人々、4つの文字を背中に表した亀など発色の良い糸が使われています。
★綴織當麻曼荼羅(部分) 奈良時代(8世紀)縦横約4m 當麻寺(奈良・葛城市)蔵(中将姫伝説)
「綴織當麻曼荼羅(つづれ織りたいままんだら)」は、極楽浄土を壮麗な構図で描いています。中心に阿弥陀如来、多くの菩薩が集まり、堂宇が周囲に配されています。中将姫らが一晩で織り上げたという伝承があり、浄土信仰の核となりました。傷みが激しく4年をかけて修復が行われました。1250年の長い間守り継がれてきた国宝です。修復してもこの状態です。
同時に部分複製が公開されました。京都市の繊維メーカー・川島織物セルコンが手がけ、4メートル四方の曼荼羅のうち本尊の左にいる菩薩と本尊の光背の部分(縦19・5センチ、横23センチ)を色鮮やかな絹糸36色、金糸2種類を使って、復元に10カ月、うち製織に40日かかりました。このペースで曼荼羅全体を織ると、4人がかりで9年半かかるそうです。
「綴織當麻曼荼羅」部分復元
★刺繡釈迦如来説法図(8世紀)縦208cm×横158cm 奈良国立博物館蔵
この大画面のすべてをたった2種類の刺繍で覆い尽くしています。
中央の赤い衣を着たお釈迦様が説法(教え)を説いています。
一番下の後ろ向きの人がお釈迦様の母親・摩耶夫人です
お釈迦様の周りには菩薩、十大弟子、供養する人々。
上方の空には様々な楽器を奏でる菩薩や鳥に乗った仙人がいます。
刺繍の技術は、糸が鎖のようになる「鎖縫い」、結び目をつくる「相良縫い」のわずか2種類!赤、黄、橙、緑、紫色など様々な色に染めた糸が使われています。
頭の螺髪(らほつ)は相良縫い、お顔は鎖縫いです。頭光のグラデーションの見事さをお見逃しなく!
菩薩の頬の立体感をご覧あれ~!鎖縫いだけで見事に表現していますね。
蓮台(部分)の一糸乱れぬ見事な手技!
お釈迦様の頭髪や体の立体感、頭光や蓮台の色のグラデーションを整った針の運びと巧みな配色で見事に表現しています。縫い目の乱れが無くこれほど立派な繍仏は他にはないそうです。
ここに御紹介出来ていないのですが、すべてが素晴らしい作品でした。
滅多に公開されない糸のみほとけです。お勧め~~~!